東京都内の女子中学生(13)は、直径2センチほどの赤い斑点が、おなかや太ももにいくつも広がった。東京・文京区の順天堂大病院で診察を受けたところ、新型の水虫菌(白癬菌)「トリコフィトン・トンズランス」感染症と分かった。
最近、格闘技選手らの間で増えており、夏休みにこの水虫菌の治療中だった高校柔道部員のいとこ宅に滞在し、畳などを介して感染したらしい。抗真菌薬の塗り薬や内服薬で、約1か月後に治った。
水虫菌はカビの一種で、皮膚の表面(角質層)にあるたんぱく質(ケラチン)を栄養にして寄生する。角質層はアカとなってはがれ落ち、菌はスリッパや畳、じゅうたんなどを通じて家族の手足などに感染することが多い。しかし、トリコフィトン・トンズランスは、体や頭部に感染しやすい。通常の水虫菌に比べ、症状は目立ちにくいが、非常に感染力が強く、短期間で広がる特徴がある。
順天堂練馬病院(東京都練馬区)皮膚・アレルギー科教授の比留間政太郎さんによると、この菌は“輸入”された新型菌だ。1960年代にキューバから米国に持ち込まれ、90年代にはヨーロッパに広がったとみられる。2001年ごろから、柔道やレスリングの国際試合などに出場した日本人選手にも確認されるようになった。身体が触れ合い、すり傷もできやすい格闘技選手間で感染し、柔道人口(約50万人)の数%、1~3万人が感染していると推測されている。今後、家庭内でも感染が広がることが懸念される。
感染が疑われたら、早期に皮膚科で顕微鏡検査や培養検査を受け、トンズランス菌かどうかや、菌の量を確かめたうえで治療を受ける。
比留間さんは「あまり知られていない上、症状が軽く見えるため、医師が湿疹(しっしん)などと誤診して炎症を抑えるステロイド剤を処方し、症状を悪化させる場合がある。診断時に柔道など格闘技をしているか確認が必要。患者も医師に伝えてほしい」と強調する。
柔道選手の場合、柔道着で皮膚がこすれる顔や首、上半身などに、直径1~2センチのピンク色の発疹ができることが多い。頭部は、ふけやかさぶたができる軽いものが多いが、重い場合は頭皮が盛り上がり、うみが出て毛が抜ける。
治療法は、患部を清潔に保ち、皮膚科で処方されたものか市販の水虫の塗り薬を約1か月間塗る。効果が乏しければ、医師が処方する内服の抗真菌薬(イトラコナゾール、テルビナフィン)を使う。頭部は、菌が少ない場合は市販の抗真菌剤入りシャンプー(コラージュフルフルシャンプー)で3か月間、頭をていねいに洗う。菌が多い場合は、シャンプーに加え、症状に応じて内服治療を行う。治療から数か月後に、菌がなくなったかどうか確認する。
放置しておくと、治りにくくなる。かゆみや赤みなどが消えても、菌は毛穴の中で隠れて生き、感染源となる。
感染予防も重要だ。練習場や練習着を常にきれいにし、練習直後に頭や体をよく洗って菌の付着を防ぐ。症状がある部員がいれば、すぐに治療を受けさせる。家庭での感染予防も通常の水虫予防と同様、室内や風呂場周りをこまめに掃除し、タオル、スリッパなどは別々にする。